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ウルム大聖堂(ドイツ)

アルザス地方の中心都市ストラスブールを抜け、ライン河を渡るともうそこはドイツ、シュバルツバルトと呼ばれる鬱蒼とした森が一帯に拡がっており、その中を蛇のように曲がりくねった高速道路が走っている。時速200km近くの猛スピードで走り抜けるドイツ車を横目に、ひたすらゆっくりと東を目指す。山あり谷あり、この地域は多くの隣国に接しているためか、大型トラックが非常に多く行き交い、交通の要衝といった感じ。快適とは言えないドライブを2時間程続けると目的地のウルムの町が見えてくる。日本人には殆ど馴染みのない町で、むしろ、ウルムから北に30km程のところの、熊のぬいぐるみテディベアを生産しているシュタイフ社があるギーンゲンの町の近くと言った方が地理関係を分かってもらえるかもしれない。何故そのような観光地としては有名でもない町に来たのかと言えば、この町に、ゴシック建築史上最も高い尖塔を持つウルム大聖堂があるからでる。

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~夕闇に浮かび上がるウルム大聖堂西正面尖塔~

今回の旅は8月上旬。なのに外の気温は12度、暗雲が低く垂れ込め、雨が霧のように視界を遮り、とても夏とは思えない風景が見の前に展開していく。高速道路を降り、ウルムの町に入る。今でこそ人口15万人程度の、ドイツ国内では中規模の町に過ぎないが、中世には織物の産地として広く知られ、また、町を流れるドナウ河が交通網としての役割も果たしたことから地域で最も重要な市場が発展、町は大きく栄え、14、5世紀にはドイツ最大規模の都市であったらしい。そのような町の経済力、社会的地位を梃に、当時フランスを中心に盛隆を極めたゴシック建築熱の影響を受けた町の有力者達が、「ドイツ最大の我が町に相応しい壮大なゴシック大聖堂を」と、ウルム大聖堂の建立を決定したのかもしれない。尖塔の高さ実に161.5m、大聖堂自体も、全長125m、天井高42m、面積6千㎡と、ケルン大聖堂に次ぐドイツで2番目に大きな大聖堂である。

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~斜め後ろより尖塔を見る~

大聖堂の前が広場になっており、全貌を見渡すことができる。尖塔はフランスの大聖堂で多く取り入れられている双塔式ではなく、西正面の中心から1本の尖塔が真っ直ぐに聳え立つ単塔式である。塔があまりに大きく、高いため規模としてはかなり大きいはずの大聖堂自体が小さく見える。どちらかというと塔の下段部分に聖堂がくっ付いているといった感じである。塔は透かし彫りを至る所に採用した、石で出来た刺繍細工のようで巨大ながらも繊細な印象を与え、あまり石の重々しさを感じさせない。ゴシック様式の尖塔の中でも特筆すべき傑作だと思う。ただ一つ残念なのは、この尖塔は中世に建築されたものではなく、産業革命後の19世紀末、近世になってようやく完成したもので、まだ産業機械等のない中世の人達が天の国を目指して建てたものとは違うということである。とは言うものの、ただただ鈍重な石の塊としか思えない、同じく19世紀末に完成したケルン大聖堂の尖塔に比べると、ゴシックの時代の中世の精神が、よりウルム大聖堂の尖塔には表れているように思われる。

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~夜の帳が降りたばかりの西正面~

じっくり時間をかけて見て回りたいのだが、余りの寒さに一緒だった家族も身体が冷え切り、已む無くホテルに戻る。以前来た時も曇り勝ちなあいにくの天気で、雲間から漏れる夕陽を浴びて朱色に燃え立つ西正面をほんの一瞬しか見ることができず、今回こそは、と期待を懸けて来たのだが、前回どころではなく、本当にがっかりしてホテルの部屋で暖を取った。夜になっても雨は降り続いていたのだが、流石に夕食を取らないといけないので、ホテル近くの小さな居酒屋のようなレストランに入る。客は、私と妻以外にはいかにも地元の仲間同士といった4人がテーブルを囲んでいるだけの静かな雰囲気なのだが、壁からテーブルまで調度が全て木で誂えてあり、外が寒かったせいもあってか、暖かい気分になる。ドイツと言えばビールなので地元の生を大ジョッキで頼み、この辺りではどこのレストランのメニューにもあるウィンナーシュニッツェル(薄切り豚肉のトンカツ)を頼む。大きなカツが大盛の野菜とともに出てくる。塩とレモンを垂らし、熱々なのをビールで口を冷ましながら頬張る。揚げたてでサクっとしており、なんとも美味しい。ビールも飲むにつれアルコールが程好く回り体が温かくなってくる。「田舎でこんな食事もいいね」と妻と話し、雨に祟られはしたけれど、いい旅になった、とすっかり良い気分になりレストランを出た。すると食事前までは激しく降っていた雨が殆ど止んでいるではないか。寒さは相変わらずだったが、大急ぎでホテルに戻り、カメラを持ってライトアップされた西正面の尖塔の写真を撮りに行く。闇に浮かび上がる巨大な西正面尖塔は、さながらお伽話に出てくる魔王の帝国の城門のよう。昼間見たのとは全く違った威圧的な、しかし変わらぬ美しい姿を見せてくれた。夢中でシャッターを押す。

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~西正面を仰ぎ見る~

聳え立つ感じを出したく仰ぎ見るようにファインダーから尖塔を見上げた時、思わず「あっ」と叫んでしまった。空に立ち込める低い霧が尖塔のすぐ上にまで降りてきており、照明を受けた尖塔の影が背後の霧にくっきりと浮かび上がっているではないか。時が静止したようだった。見るものを押し潰すように堂々と聳え立ち、それでいてこちらが引き込まれそうな繊細な美しさを兼ね備えている、異なる二面性を持つ尖塔。そしてその背後に、霧に映し出された大きな影がまるで生き物のように迫ってくる。なんとも神秘的な光景だった。ライン河岸の絶壁が霧に自分の姿を浮かび上がらせ、見る者を迷わせた「ブロッケンの魔女」、きっと中世の人達はこの二つの影の内に同じ物を見たのではないだろうかと思いながら、孤高の尖塔に別れを告げた。

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~大聖堂の背景に尖塔の影が浮かび上がる~

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~孤高の尖塔と幻想的な影~
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プロフィール

クータンス

Author:クータンス
学生時代からフランスとゴシックの大聖堂に魅せられ、紆余曲折の人生を歩んだ結果、フランス永住の道を選択しました。
ここでは、フランスを中心としたゴシックの大聖堂を紹介したいと思いますが、フランスでは夜になると大聖堂は勿論のこと、殆どの歴史建造物がライトアップされます。また、単なるライトアップのみではなく、いくつかの大聖堂では、素晴らしい光のスペクタクルを見せてくれるところもあります。こういった大聖堂の写真も一緒に載せていきたいと思います。

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