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シャルトル大聖堂(2)

ステンドグラスは、ゴシック建築と共に急速に発展した芸術形態だ。ロマネスク時代の教会は、建築構造上の制約から壁面に大きな窓を穿つことができず、また、暗い堂内に明るい光を取り入れる必要があったこと及び、教会=修道院であったことから、修道士の祈りの場としてのみ存在すれば良かったことから、窓には無色のガラスが嵌め込まれることが殆どであった。

しかし、ゴシック大聖堂では、ロマネスク様式の教会に比べはるかに大規模になり、かつフライングバットレス(飛び梁)の導入により大聖堂本体の自重を大聖堂の外に逃がすことが可能になったことから、壁に大きな窓を穿つことが可能になった。ここに芸術史家のハンス・ヤンツェン曰く「ダイアファナス(半透明)な壁」となるステンドグラスが嵌め込まれることになる。

何故無色のガラスでは無く、極彩色のステンドグラスが用いられることになったかについては、思想的、建築概念としての理由については、あまりに難解で頭の悪い私には良く分からないので、横に置いておくとして、2つの大きな実際的な理由を挙げることができる。第一には、一般市民の啓蒙のためである。大聖堂は、ロマネスクの教会のように修道士のためのものではなく、一般市民が訪れる祈りの場である。当時の市民は文盲が殆どであったため聖書を読むことができなく、彼らにキリストの生涯や聖書の内容を理解させるためには視覚に訴える必要があった。まず身近に目に触れることのできる大聖堂下部には聖人の生涯や、最後の審判等の聖書に出てくる物語や題材が、鉛の太い線で区切られたコマ割りによって描かれた。下から上に、ステンドグラスを見上げていくとその物語が理解できるという仕組みである。そして上方の窓からは、下部のステンドグラスでその生涯が描かれていた聖人達の像が巨大な姿でもって市民を見下ろしている。自分達のはるか上方から、かつ巨大な姿でもってというのが、市民に聖人達の偉大さをより認識させることになった。こうして、市民達はステンドグラスでもってキリスト教をより身近に理解することができるようになったのである。

もう一つの理由はより実際的なもので、大規模な教会堂の建設には莫大な資金が必要となることから、大聖堂の建設を仕切る役目を担っていた教会参事会は市民や商人あるいは諸侯からも寄付を募った。寄付をすれば神の国に召されると信じていた当時の人々は挙ってこれに応じた。なかでも当時相当な資金力を持っていた商人達は多額の寄付を行ったらしい。商人の側からしても、単なる信仰心以外にも、より実際的なメリットがあった。寄付をした商人は、ステンドグラスの一番下の部分に自分達の仕事振りを入れてもらうことができた。下の部分だから市民達の目にも留まりやすい。格好の広告となったわけだ。

前置きが随分長くなってしまったが、シャルトル大聖堂は、こうして発展したステンドグラスが最も美しく、最も沢山嵌め込まれている大聖堂なのだ(ステンドグラスの量という点では、ここシャルトルよりはるかに多くのステンドグラスの嵌め込まれている大聖堂がある、例えばメッツ大聖堂に嵌め込まれているステンドグラスの総面積は6500㎡、それに対しシャルトル大聖堂は2000㎡、1/3にも満たない。しかし、メッツ大聖堂のステンドグラスは殆どが15世紀以降、12、13世紀のように色に深みが無く、堂内に入って神秘的な光に包まれるとの印象を受けるのは圧倒的にシャルトル大聖堂の方だと思う)。

まずは、ほんの少しだけ残されている、「シャルトルブルー」と呼ばれる12世紀のステンドグラスからご紹介したい。西正面はロマネスク時代の大聖堂のものがそのまま使われていることは前回にお話したが、ここに嵌め込まれている3枚の大窓は全て12世紀の美しいステンドグラスだ。

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~西正面の3連窓~

なかでも私が最も美しいと思うのは、右端に位置する「エッサイの樹」だ。同じ題材のステンドグラスは他の大聖堂でも良く見られるがシャルトルの美しさに勝るものはどこにもないと思う。

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~「エッサイの樹」のステンドグラス~

旧新約聖書の血縁的系譜を題材にしたもので、眠るエッセイの横腹から樹が生え、上に伸びる枝々に歴代の王が座し、頂点にキリストが君臨するという構図。ここで用いられている青が「シャルトルブルー」と言われる色で、13世紀の青に比べ、淡く透き通るような青で、現代でもこの青を再現するのは困難なのだそうだ(仏の大手ガラスメーカーサンゴバンがこの青を再現した、ということを聞いたことがあるが実物を見たことがないので、真偽の程は分からないが)。

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~シャルトルブルーを背景に眠るエッセイの横腹から樹が生え上に伸びる~

中央の大窓は縦11mにも及び巨大なもの。キリストの生涯が24の場面に描かれ、頂点には聖母の膝に座す子供のキリストが天使に囲まれ祝福される。

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~キリストの生涯~

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~キリストの生涯上部拡大~

もう一つ、シャルトルブルーが用いられた窓がある。内陣南側にある「美しき絵硝子の聖母」と言われるステンドグラスだ。

DSC02559.jpg

中央の幼いキリストを抱く聖母の纏っている衣がシャルトルブルー、12世紀のステンドグラス。周りを取り囲む天使達は13世紀の作品、12、13世紀のステンドグラスが共存しているのだ。天使の背景の青のステンドグラスと比べてみて欲しい。シャルトルブルーに比べかなり深い青なのが良く分かると思う。13世紀にステンドグラスはフランス各地に広まり、この深い青は著名な大聖堂でいくらでも見ることができるが、シャルトルブルーの青は他ではまず見ることができない(同じく数少ない12世紀のステンドグラスの傑作であるルマン大聖堂の被昇天のステンドグラスの青は、このシャルトルブルーと同系統の淡い透き通るような美しい青である)。

また、美しき絵硝子の聖母の隣にある聖アントワヌと聖ポールのステンドグラスもシャルトル大聖堂内で最も美しいステンドグラスの一つだ。青と赤が混ざり合い、紫を帯びた色合いを背景に、深い青を基調とした大きな円が三つ連なる独創的な構成。横のシャルトルブルーに勝るとも劣らない美しさだ。聖アントワヌはフローベールの小説でも有名な「聖アントワヌの誘惑」という題材で描かれることが多く、少し小さくて分からないが、このステンドグラスでも同じ主題が描かれている。

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~美しき絵硝子の聖母と、その隣にある聖アントワヌと聖ポールのステンドグラス~

この2つのステンドグラスの真上に、小さくて分かりにくいが、聖母が乳房を露わにし、幼いキリストに母乳を与えている姿が描かれている。中世にしては衝撃的な図像だと思うが、なんとも微笑ましいステンドグラスだ。

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~聖母による授乳~

次に西正面、南北両翼廊に君臨する三つの大薔薇窓を見てみよう。

まずは西正面の「最後の審判」を主題とした西正面の薔薇窓。南北の薔薇窓のような色彩の豊かさは無いが、打ち上げ花火が夜空に開いた時の一瞬の美を捉えたような美しさだ。

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~西正面薔薇窓~

続いて、南北薔薇窓。圧倒的な存在感だ。薔薇窓は殆ど全てのゴシック大聖堂に嵌め込まれているが、シャルトルのものは最も美しいものの一つだと思う。

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~南翼廊薔薇窓~

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~北翼廊薔薇窓~

ここで、北薔薇窓は青色が主体で、南薔薇窓は赤が主体となっているのに気付かれるだろうか。中世の人々は色彩の特性を良く理解しており、日差しの降り注ぐ南には収縮色の赤を、直接光の当らない北には膨張色の青を配置しているのだ。

他にも堂内には美しいステンドグラスが数多く嵌め込まれている。主要なものをいくつか紹介する。

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~マグダラの聖マリア~

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~善人サマリタン~

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~聖処女の軌跡~

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~内陣周歩廊の礼拝堂の一つ~

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~中心部にある聖エティエンヌのステンドグラス、赤を基調とした構成が美しい~

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~聖リュバン~

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~聖ウスタッシュ~

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~ジョセフ~

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~聖ニコラ~

天井を見上げると、薄暗い堂内にステンドグラスが夜景のように浮かび上がる。

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~堂内(1)~

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~堂内(2)~

また、内陣には、フランボワイアン様式の素晴らしい彫刻群が周歩廊の内側に施されている。

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~内陣のフランボワイアン様式の彫刻~

こうしていくつか写真を列挙してみても、実物の美しさには全く程遠い。本当に美しいものは写真等で撮って持ち帰ることなどできはしないということを痛感させられる。また近い内に感動を味わいにシャルトル大聖堂に行ってみたいと思う。
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No title

はじめまして。
ゴシック建築の情報を探しているうちにこちらにたどり着きました。
私も、ゴシック建築に魅せられた人間でして、クータンス様のブログの記事に共感しながら読ませていただいております。
こちらのブログの写真も非常に美しく、また、クータンス様の解説文の密度も非常に濃くて、更新が毎回楽しみです。
シャルトル大聖堂は10年ほど前に私も訪れたことがありまして、あの時の感動を懐かしく思い出しながら記事を拝見しました。

フランボワイヤン・ゴシックですが、私もルーアンで初めて遭遇しまして、あの力強くも繊細で美しい装飾性に衝撃を覚えました。
アミアンやランスの大聖堂も素晴らしいですが、ルーアン大聖堂やサン・マクルーも同じくらい美しいと思います。

あまりに素晴らしい記事なので、あっという間にほとんど読んでしまいました。今後の更新も非常に楽しみにしております。

Re: No title

コメント頂き、有難うございます。非常にマニアックなブログなので読んで頂ける方など、なかなかいないだろうと、半ば日記のような感覚で書いているのですが、同じゴシック建築にご関心をお持ちの方に読んで頂けるのは嬉しい限りです。今後も色々マイナーな大聖堂のことなども載せていきたいと思いますので、またご感想お聞かせ頂ければ幸いです。
プロフィール

クータンス

Author:クータンス
学生時代からフランスとゴシックの大聖堂に魅せられ、紆余曲折の人生を歩んだ結果、フランス永住の道を選択しました。
ここでは、フランスを中心としたゴシックの大聖堂を紹介したいと思いますが、フランスでは夜になると大聖堂は勿論のこと、殆どの歴史建造物がライトアップされます。また、単なるライトアップのみではなく、いくつかの大聖堂では、素晴らしい光のスペクタクルを見せてくれるところもあります。こういった大聖堂の写真も一緒に載せていきたいと思います。

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