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ルマン大聖堂

パリから200km程南下すると、数々の古城が点在することで有名なロワール地方に着く。シャンボール城やシュノンソー城など、日本人観光客にも馴染みの名所がひしめいており、パリからの一日ツアー等でよく訪れられる場所である。このロワール地方の中心都市トゥールから程近いところに、ルマンの町がある。ルマンと聞くと、24時間耐久レースを思い浮かべる人が殆どだと思うが、中世の町並みを多く残す観光都市としても有名で、その中でも、これだけのために行く価値があると言える実に素晴らしいゴシックの大聖堂が存在する。この大聖堂は私にとって2つの点で非常に印象深い大聖堂となっている。一つはその特異な建築構造で、もう一つは、現存する中で最古の一つに数えられるステンドグラスが嵌め込まれていることである。

ルマン大聖堂を横から眺めると2つの建築物が真ん中でくっついているような印象を受ける。これは、外陣(西正面から入って翼廊迄の部分)がロマネスク様式で建てられ、翼廊及び内陣が完全なゴシック様式で建てられていることによる。ロマネスクの部分は実に簡素で天井も低く窓も小さい。一方、翼廊から後ろは典型的なゴシック建築で屋根が高く壁面に大きな窓が穿たれている。ルマン大聖堂を見ると、ロマネスクとゴシックの様式上の違いが、本を読むよりずっと良く理解できる。また、内陣の外側にあり、大聖堂後方を支えるフライングバットレスは、数あるゴシック建築の中でも最も華麗で複雑なバットレスと称されている。五廊式(大聖堂の真ん中を縦に走る天井の一番高い部分を身廊と言い、その外側にある一段低くなった部分を側廊と言う。殆どの大聖堂は身廊の両脇に側廊が1本あるだけの三廊式なのだが、ルマン大聖堂を含め一部の大聖堂は側廊を2本持つ五廊式のものもある)の構造を持つことから真後ろから見ると大聖堂が3段になっており、これらをそれぞれ支えるようにバットレスが上から下にいくつにも別れ、広がり伸びており、扇状の滝が、細い幾条もの絹の糸のような水の流れを下に落ちていくにつれ広げていく様を彷彿させる、実に優美な姿を見せてくれる。また、「イグレック(フランス語の“Y”)」と称される、文字通り、先が枝分かれしてYの形をしている特殊な形態のバットレスを有することでも有名で、こんな複雑な構造の補強材を良く考え出したものだと感心させられる。

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~夕闇にライトアップされた大聖堂外陣の複雑なバットレス~

DSC00886.jpg~バットレス拡大部分~

もう一つ、ルマン大聖堂をゴシック大聖堂の中でも第一級の芸術品に引き上げているものは、窓という窓に嵌め込まれたステンドグラス群である。ここには中世の素晴らしいステンドグラスが数多く残っており、特に深い赤の色合いはシャルトルに勝るとも劣らない美しさである。夕暮れ時、内陣高窓が夕陽を受けると、鮮やかで深みのある赤色が一層燃え立ち、堂内全体を浮かび上がらせるようなゆらめく光を床に落としつつ、天井の空間をも満たしていく。天国というものがあるとすればきっとこのような所なのだろうと、その場にいる者を幻想的な雰囲気で包み込むのである。中でも特に有名なのが、「昇天(Ascension)」と名付けられた、西正面を入ってすぐ左側の窓に嵌め込まれたステンドグラスで、現存するステンドグラスの中で最古のものに属するだけでなく、聖母が昇天する様を回りの天使達が見上げるという主題を実に優美かつ大胆に表現した、中世期のステンドグラスの中で最も美しいものの一つに数え上げられているものである。比較的簡素な構図ではあるが、深い青と赤を大胆に使った色彩の調和は素晴らしいもので、本当にこれを見るだけにでも来る甲斐があると思わせてくれる。 
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~大聖堂内陣上部のステンドグラス~

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~大聖堂内陣のステンドグラス~

 昇天のステンドグラス
~被昇天のステンドグラス~

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~上昇感のある内陣円柱~

また、夏の間に行われる西正面のライトアップショーも、他の大聖堂のそれとは異なったユニークな、非常に素晴らしいものである。堂内の内陣にある柱の上部には天使達の様々な楽器を奏でている姿が、歳月を経て若干色褪せてはいるものの、鮮やかに描かれているのを見ることが出来るのだが、夜になると、この天使達が大聖堂の中から抜け出し、西正面を舞台に静かに羽をはためかし、浮かび上がりながら皆それぞれ持つ異なった楽器を奏で、集まった者達にその素敵な音色を聞かせてくれるのである。他の大聖堂で行われるライトアップは色彩を変えたりするものはあるが、基本的に一つの静止した西正面の姿を映し出すのみである。しかし、ルマン大聖堂では、西正面が建設の途中で単に内部を埋めて壁面にしてしまったかのような簡素なものであるために、スクリーンのような役割を果たすことができ、そこに動画を映し出すことができるのである。この一風変わった幻想的な音楽会は以下のように展開される-
最初は、西正面の真ん中にある大きなステンドグラスを中から光を当て浮かび上がらせたところに、外部から、中世の極彩色の写本や動物等の映像を重ね内と外からの、ステンドグラスと現在の映像技術の粋なコラボレーションを見せてくれる。そうしている内に、どこからか幻想的な音楽が聞こえてくる、すると西正面の下や横の方から天使がバイオリンやオルガン等の楽器を奏でながら、ゆっくりとなんとなく恥かし気に姿を現す。しばらく演奏していたかと思うと、すうっと上の方に上り消えていく。そうするとまた別の天使が現れて演奏を見せてくれる。天使によっては、腕に自信があるのだろうか、西正面の真ん中辺りで少し立ち止まって優雅にバイオリンを奏でてくれたりする。たまに3人程で現れることもあり、だんだん演奏はクライマックスに近づいていく。そして最後には今迄出演した天使達が一斉に舞台に登場し、曲の最後を奏でて一人、また一人と音も立てずに上の方へ消えていき、一人もいなくなったところで舞台は暗転、この不思議な天使の演奏会の終演である。映し出される色彩も実に鮮やかで、ふわふわと浮かぶように動く天使達と相俟って誠に幻想的なショーを見せてくれる。どこの大聖堂でもそうだが、こういった素晴らしい演出を無料で観光客に提供するわけだから、フランスという国は文化・芸術の点ではつくづく素晴らしい国だなと改めて実感してしまうのである。
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~ライトアップショー(1)~

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~ライトアップショー(2)~

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~ライトアップショー(3)~

私にとってルマン大聖堂が最も印象に残る大聖堂となっているのにはもう一つ理由がある。それは大学四年の卒業前の春休みにヨーロッパを1ヶ月かけて一人旅をした時のことである。それ迄にも既に2度ヨーロッパを旅し、殆どの有名なゴシック大聖堂は見てしまっていたのだが、一般的にはあまり知られていないルマン大聖堂は未だ訪れていなかったので、旅の終わる前日にふと訪れてみたのである。写真で見てその一風変わった姿は知ってはいたものの、実物を見ると大違いで、その素晴らしさに圧倒されてしまった。後陣から見た複雑・優美なフライングバットレス、すっと伸びた細身の身廊とそれを支える五廊式の側廊、中に入って殆どの窓に嵌め込まれた中世の深い色合いのステンドグラスから差し込む光の段幕にも目を奪われ、なんと素晴らしい芸術作品なのだろうと正直、腰を抜かさんばかりに驚いてしまったのだ。丁度その前にイギリスの有名なゴシック大聖堂をいくつか訪れ、フランスの大聖堂と比べて全く感動しなかった思いを持ってフランスに渡ってきたということもあって、フランスではシャルトルやランス等の有名な大聖堂の影に隠れてあまり名も知られていないこのルマンの大聖堂でさえ、これ程素晴らしいのだから、フランス文化というのはなんと奥の深い、素晴らしいものなのだろうと改めて認識したのである。実は、大学2年の時初めてヨーロッパ旅行をし、憧れ続けたフランスの地を踏んだものの、フランス人のあまりの冷たさ、自己中心さにほとほと嫌気が差して、二度とこんな国になど行くものかと、帰った直後は思っていたのだが、少し経つとあんなにいやだったフランスがまた何故か気になり出し、一年後再びフランスに出かけてしまい、2ヶ月間フランスだけに居たのだが、その時は一年前とは違ってかなりの部分楽しむことができたのだ。そして卒業を控えた春休み、もう一度フランスに行き、それで本当に好きだと確信できたなら一生フランスと関わって生きていこうと思って再度ヨーロッパを訪れ、フランスを中心に他の国々を旅して歩いたのだが、自分の中で明らかに他の国と比べてフランスの素晴らしさの方が実感でき、やはり自分がフランスに拘り続けてきたのは間違いではなかったと思い始めていた旅の最後に、このルマン大聖堂を訪れ、それが確信と変わったのである。以降、ずっと自分の人生の中心にはフランスがあり、今もこうしてフランスに住んでいるのであるが、その決心というか自分の気持ちを確認させてくれたのがルマン大聖堂なのである。いつも大聖堂を訪れ、後陣のフライングバットレスや内陣の素晴らしいステンドグラスを眺める度に当時の旅立ちにも似た初心を思い出すのである。
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クータンス

Author:クータンス
学生時代からフランスとゴシックの大聖堂に魅せられ、紆余曲折の人生を歩んだ結果、フランス永住の道を選択しました。
ここでは、フランスを中心としたゴシックの大聖堂を紹介したいと思いますが、フランスでは夜になると大聖堂は勿論のこと、殆どの歴史建造物がライトアップされます。また、単なるライトアップのみではなく、いくつかの大聖堂では、素晴らしい光のスペクタクルを見せてくれるところもあります。こういった大聖堂の写真も一緒に載せていきたいと思います。

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